情けない男

最初は小さな口論だった気もするが詳しく放った言葉なんて覚えていない。
気付いたら両手を羽交い締めにされて殴られていた。一方的に。
準備をして歯を噛み締めたが
いつものように丁度口の端にある八重歯に当たってザクリと音がした。
応戦はしたが相手の方が体格も力も上では満足するまで殴られるすべしか俺には残っていない。
口の中に溢れるかと思う程の血の味が充満しソレを苦々しく飲み込む。


こうなってしまった相手は何を言っても話が繋がらない。
イライラとぐつぐつ煮えたぎる気持ちを押さえつけて相手が落ち着くのを待つ。
同じ事は何度も話し合った。
辛い事も幾度も話し合った。
そして幸せだった時間は数えきれないくらいあったのだ。


男が落ち着いて同じ話を繰り返し始める。
もう疲れきった俺は静かに頷く事しかできない。
暫くして納得したらしいその男は俺の前でぽろぽろと涙を流し始めた。
いつもの卑怯な手だ。
でもソレが真実の姿だと言うことは俺は痛い程知っている。


優しく髪を撫でてやり、疲れた体をベッドに寝かしつけると男は素直に眠りについた。
暫く様子を見ていた自分が泣いている事に気がついた。
それでも別れられない自分が情けなかった。
きっと別れる気もないのだろう。


次の日も又次の日も傷は血の味と共に暴力の記憶を思い出させる。
それでも、口の中の血の味を忘れる頃には又同じ事を繰り返すのだろう俺たちは。
この男に捨ててしまわれるまで。
07/03/22
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