あの子の誕生日

そういえば彼の誕生日はもう1週間もないんだった。

僕の誕生日に花を贈ってくれた律儀な子に何かお礼をしてあげないとな
幸い屋敷から出る前にカードや財布は持ってきた。
暗証番号やネットバンクのパスワードも頭の中だ、子供の欲しがる物くらいは何だって買ってやれるだろう。
ふと部屋のデスクに飾られた花を眺める。
恥ずかしいもの贈ってくれて…苦笑は否めないが彼の気持ちは十分すぎる程理解できる。
一生懸命選んでくれたのだろう。言い訳する姿を思い出し、アムロは軽く息を吐いて笑った。

「欲しいもの…ですか?」
驚きと喜びが綯い交ぜになった感情がザワザワと感じ取れる
「時間もないし、直接聞いた方がいいような気がしたんだ」
「い、いいですよ!あ、アムロさんからそんな、頂くなんて」
かわいいなぁ、遠慮なんてしなくていいのに。
初めてあった時の失望されたような顔を思い出しては、今とのギャップに微笑ましささえ感じる。
自分に嘘のつけない子だな、僕とは大違いだ。
卑屈な考えも彼の純粋さを目の前にすると暖かささえ感じる気持ちに変化する。
「いいんだよ、僕も貰ったし、何よりも君の頑張りには前から個人的にも礼をしたかったくらいなんだ。」
途端に嬉しそうに頬を染めた顔が跳ね上がる。
なんて奇麗な子なんだろうな。
僕は自他共に認める面食いだからさ、そういう子に弱いんだ。
腕っぷしも強いし真直ぐで激情家なこの子にはあの男とは全く違う魅力がある。
「あ、あの」
恥ずかし気に口を開いた彼の言葉に耳を傾ける
「いっ、一緒に、食事とか……あっ!!…いえ!あの色んな話を聞かせてもらいたいので!!」
思わず吹き出した。
真っ赤になって言い訳するカミーユは、その年令より幾分か若く見える。
「デートみたいだな」
からかってやると人一倍大きな声で名前を叫ばれた。


カミーユと一緒にいると自分はアレから7年の歳月を経て大人になったのだと感じずにはいられない。
無駄に過ごした監禁生活を誰かは籠の鳥と称したが、それとは全く違う感覚だ。
与えられたものの中で生活していた中で忘れていたもの、
大人の責任、分別と言うものを思い出さされるのだ。
二人でゆっくり食事のできる落ち着いた店をネットで探す。
カミーユならどんな所がいいのだろうかと相手を立てつつ探す行為は優しい緊張感で心を弾ませる。
少し大人を実感できる感覚に優越感も憶えつつ、可愛い彼との時間を楽しいものにしたいと言う欲求が駆り立てられるのだ。
若く才能のある伸び伸びとして見えた彼に嫉妬したこともあった。
だが今では彼は僕にとって特殊な存在になりつつあることを実感している。
ニュータイプ同士だからと言う訳ではない。
ホワイトペースではオールドタイプもニュータイプもみんな僕の家族だったんだから
カミーユとの感情の共有は7年前のクルーたちとの関係を彷佛とさせるのだ。
「ここでいいかな」
地球ならではのような静かな緑の多い店を選び、個室を選択する。
多分あの子は僕との食事であればどこだっていいのだろうけど
そう思うと口の端しが緩むのを感じた。
「まいったな」
カミーユのことを笑えない程に状況を楽しんでいる自分がいる。
とりあえず予約項目に誕生日イベントと付け加えておいた。


携帯に撮ったビデオをみんなに見せるとまっ先にベルトーチカが高い声で笑った。
さっきまで嬉しそうに照れていたカミーユも流石にムッとした表情を隠せずに『なんですか!誕生日なんだからいいじゃないですか』などと反論している。
どっちの気持ちもわかるよ。という言葉は飲み込んで周りを見ると皆、微笑ましく笑っている。
「随分とサービスの良い店だったのだな」
含み笑いを隠すように口元を隠すクワトロ大尉に同感だと言わんばかりのハヤトが楽し気に頷く。
「まさかこんな物が出てきて こんなサービスがあるだなんて知らなかったんだよ」
携帯から放たれるホログラフには、巨大なケーキとカミーユを中心にして従業員の大合唱が流れている。
アムロが写っていないのは現場の撮影に逃げていたからだろう。
苦笑いを称えるアムロにハッと振り返ったカミーユは大きな声で訴えた。
「すごく、恥ずかしかったですけど、でも! でも!! 
 こんな風なの初めてだったから、俺、楽しかったし、
 嬉しいです!」
私だったら恥ずかしくて顔も上げれないわ。というベルトーチカの声は、その場にいた大勢の大人達の笑い声でかき消された。

ただ、アムロだけは満足そうに微笑んで、カミーユの少し多めの髪をゆっくりと撫で上げた。
05/11/12
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