あの人の誕生日

あぁ、今日はあの人の誕生日なのか。
ベルトーチカが忙しなく準備をしている様を見て
昔見た「アムロ・レイのプロフィール」 を思い出した。

いつも影ながらに僕を心配してくれて支えてくれる
優しいあの人に、何かプレゼントがしたいな。

エウーゴに入ってからと言うもの幾らかの現金支給もあるが、忙しくて使う暇もない。
尻に押しつぶされたポケットの中の財布を取り出す。
「結構入ってるな」
何を贈ればいいのか見当も付かないが花束くらいなら買えるだろう。
枯れれば捨てればいいお祝い事の贈り物としては気持ちを渡せる上に比較的考えずにすむ楽なプレゼントだ。

「えぇっと、街に行けば花屋くらいあるよな」
地球だし。とりあえずは外出許可をとってこないと。
適当な私服に着替えると許可を貰うつもりで艦長のいるデッキに向かった。


簡単なプレゼント。という認識を改めないと行けないことに花屋の中で気が付いた。
「どのようなモノをお求めですか?」
花屋に飾られた色とりどりの花籠と花束
そして、まるで知らない沢山の花々。
初めて経験した花屋にカミーユは暫し呆然と立ち尽くしていた。
『何をどう買えばいいんだ』
財布を握った手にじんわりと汗が滲み出る。
まるで初めてブライト艦長にサインを貰いに行った時みたいだ。
あの時とは全く違う何とも言えない後ろめたさを感じるのは僕が男だからなのだろうか。
決して妙な気持ちで花を贈ろうと思った訳ではないのに焦りと戸惑いの後ろ暗い気持ちになっている。

「何かのイベント用のモノをお探しですか?」
「あぁ…えぇっと…誕生日の」
呆然とウィンドゥを眺める僕に痺れを切らした店員が
何か使いたい花はあるかとか、どんな雰囲気がいいかだとか聞いてくる。
わからないから呆然としてるんじゃないか!
取り敢えず、アムロさんに贈るんだったら何色がいいかな
「白っぽい…あの花瓶がないので…こんな感じの…」
イメージは白だ。それしか浮かばない。
「アレンジメントですね。えーっと白ですか…」
店員はぐるりと店内を見渡して、幾つか花を指差す。
「今の時期だと百合とか菊…になっちゃいますね、白い薔薇は置いていないのでカラーとか…」
こんなのとか、あんなのとか言われたってよくわからない。
「とりあえず白い感じのを作ってください!」
一刻も早くこの場から逃げたくて仕方のなかった僕は店員に任せることに決定した。
わからないなら専門家に任せてしまえばいいんだ。
「はぁ、では少し色の付いた花も入れて良いでしょうか?」
「任せます!」
では暫くしてから取りに来てくださいと言われ、代金を支払って店を後にする。
一先ず僕は胸を撫で下ろした。
花屋の近くのカフェでコーヒーを啜っていると何人かの客が花屋に入っては出て行く。
殆どが女性の顔ぶれになんだか憂鬱になる。
こんなことを気にするから子供だって言われるんだ。
別に後ろめたいことなんてないさ。
お世話になってる人の誕生日プレゼントなんだから。
言い訳めいたことを考えつつ自分に言い聞かせて花を取りに行くことにした。


「ぁあぁ…」
ドップリと後悔の溜息をつきながらジトリと花籠を見る。
それは、白い花をピンクで彩った ガールフレンドにでも贈るのかと言う程かわいくアレンジされた花籠だった。
上司なんだって、相手は男の人だって言っておくべきだったんだ。
「リボンまでピンクにすることないじゃないか…。」
せめて聞いて欲しかったと言う言葉は後の祭りだ。
僕はコレをあの人に贈らなくちゃいけない。
サイアクだ。言い訳が必要かもしれない。
いいさ、どうせ贈ってしまえば後は僕のモノでもないんだし。
きっと優しいあの人のコトだから『ありがとう』とか言って貰ってくれるに違いない。

初めての買い物は大概うまく行かないものだ。
05/11/4
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