チョコレートディ

2月に入り、暫くするとヴィーノが浮かれ始めた。

談話室に入ると浮かれているヴィーノに無視を決めこんでヨウランの隣に座る。
「何だ?あいつ、最近機嫌いいけど?」
ヨウランは皮肉に口を歪ませると、口を開いて軽く笑い声をあげた。
「バレンタインだよ。バレンタイン。」
あいつってば彼女もいない癖に、と半ば呆れながら2人でヴィーノを遠巻きに見つめる。
俺はヨウランの手から珈琲の入ったカップを奪って喉を潤した。

もともと、プラントにはバレンタインと言う行事にチョコレートのような菓子を贈る習慣はない。
オーブ出身者の多い地区には見受けられた習慣らしいが、プラント全土に広がったのは、オーブから多量の難民を受け入れてからだ。
平和ボケしたオーブにはバレンタインデーとホワイトデーと言う、日頃のお礼や思いを込めて、男女が菓子を贈りあう、菓子メーカーの3月決済に向けての大販売企画の日があったのだ。

自分もオーブに住んでいた頃は、毎年母と妹から手作りのチョコレートを貰ったものだ。
カカオの香りが殆どしない、ミルクと砂糖の効いた甘いチョコレートだった。
俺へのチョコレートはいつもマユが形作るのか歪な形の物が多くて、お世辞にも可愛いと言えないその形を見ては妹をからかった物だ。
キッチンに立つマユの影を思い出すと口の中に甘ったかったチョコの味を、ほろ苦く思い出す。

「ヨウランは、結構貰うんだろ?」
ほら、去年も色々貰ってたじゃないか。
よく知らない女の子にまで、ヴィーノや俺に自慢してたのを覚えてる。
「レイ隊長には負けますよ」
入り口の隅に設置してあるドリンクバーで飲み物を取るレイに視線を流すと、チェと片眉を上げた。
「…ふーん」
底に残った珈琲を煽るように飲むとレイと目が合った。
「…じゃ俺がお前にチョコでもやろうか」
何げに口をついた。
俺はレイとも付き合ってるけどヨウランとも付き合ってる。
別におかしな事じゃないだろ。
男から貰うチョコなんて冗談にしかならないだろうけれど。
「え。あ…いいわけ?」
呆然としたヨウランとレイが目に入る。
何時になく控えめなヨウランが俺を見つめて、ちらりとレイを伺った。
「レイに負けないよう、協力してやるよ」
俺の答えにヨウランは、半ばガッカリしたような顔を見せると頬杖をついて項垂れる。
「数じゃないんだけどね、数じゃ」
はぁ、と溜息を付いて力なく俺を見るヨウランを放って、珈琲のお代わりを求めてドリンクバーに向かう。
そんなの知るか。
チョコの数なんかを気にしてるお前の気持ちなんか、気にしてられるか。

「どういうつもりだ?」
ドリンクバーの前で立ち尽くすレイの瞳は目蓋が心持ち座っていて、声も低い。
プライドを傷つけてしまいましたか
「ヨウランにチョコあげるんだよ」
マユのチョコ作りは見ていたから、なんとなくわかるし。
様は溶かして固めるだけだろ。
「…お前は」
さらりと掻き上げた金髪がつややかに指を滑り落ちる。
不機嫌に眉間に皺を寄せた顔と目があってしまった。
「お前は相変わらず沢山貰うんだろ?食べきれない分でケーキでも焼いてやるよ」
作り方は知らないけど。
途端に瞳を大きく見開いて驚いているレイに背を向けるとヨウランの元へ向かう。
訳がわから無くなってるだろうな。あいつは俺のことなんて全然わかって無いんだから。
喜んでいいのか怒っていいのか、わからないような2人の顔を見ながら
ふんぞり返って珈琲を煽った。

どいつもこいつも浮かれやがって。
甘いカカオのお菓子なんか、何時だって店頭に並んでるだろうに。

ろくに手も洗わずに作る俺の手作りチョコでも食って
腹でも壊しやがれ。

大慌て(滝汗)
もうすぐ3月っていうのは言いっこなし

05/2/25
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